学校薬剤師になった私が伝えたい10のこと ~塩素消毒~

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皆さんは、次亜塩素酸(次亜塩素酸水)と次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸イオン)の違いって分かりますか?
どちらも塩素系消毒薬という点では同じになりますが、使い方は大きく異なります。

塩素系消毒薬は、アルコールとは異なる特性を持つため、非常に有効な消毒薬である一方、効果的かつ安全に使用するためにはきちんとした知識が求められます。

なんとなく使用しているという方がいらっしゃるのであれば、今回の記事は絶対に読んで損はありません。是非とも、一緒に正しく消毒していきましょう!

誤った塩素消毒の知識

アルコール消毒は、非常に簡便であり、アレルギーを持つ方や傷のある方を除けば、特に注意することも意識せずに使用することができます。

ところが、塩素系消毒薬はそうはいきません。使い方を間違えれば、大きな事故につながります。
そうであるにも関わらず、何故か塩素系消毒薬は便利さばかりを宣伝する記事が目立つように感じます。

皆さんはこんな間違った使用をしていませんか?

〇 次亜塩素酸ナトリウムも次亜塩素酸も同じように取り扱う
〇 次亜塩素酸ナトリウムをスプレーとして使用する
〇 ハイターをてきとうに薄めて使用する
〇 古い次亜塩素酸水をずっと使用している
〇 次亜塩素酸を雑巾にスプレーしてから使用する

もしも上記の内容に心当たりがある方は、今回の記事を絶対に読んでください!
もしくは、私を含めた周りの薬剤師に必ず相談してから使用するようにしましょう!

塩素系消毒薬は何故効くのか?

そもそも、塩素消毒とは何なのかを考えてみようと思います。

塩素消毒として作用する成分は、塩素と水が反応して生成される、次亜塩素酸(HClO)や次亜塩素酸イオン(CⅼO)という物質になります。これらは、非常に強い酸化作用を持っており、微生物のタンパク質に反応することで、様々な細菌やウィルスを、殺菌・不活化することができるのです。

例えば、アルコールではできなかった、ノロウィルスの不活化や臭いの除去などが可能になります。

私たちが普段使用する水道水の消毒は、次亜塩素酸ナトリウムが使用されています。多くの微生物(細菌やウィルス、カビなど)に有効とされる塩素消毒は、私たちの生活を守る水道水の消毒に使用されるほどに効果が良い消毒なんですね。

塩素系消毒薬の種類

塩素系消毒薬には、先ほどお話した次亜塩素酸(HCⅼO)と次亜塩素酸イオン(CⅼO)の主に2種類が存在します。その他にも、二酸化塩素(ClO2)を使用した商品も存在しますが、効果と安全性に注意が必要であり、オススメしにくいため、今回は説明を省かせていただきます。

それぞれの特徴について確認してみましょう!

次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸イオン)

国内で唯一、消毒薬として認められた塩素系製剤です。
市販されているものでは、ハイターやミルトンなどの商品が該当します。基本的には、薄めて使用するタイプであり、取り扱いには注意を要します。

主な特徴は以下の通りです。
〇アルカリ性である
〇塩素系の中では分解されにくく、安定性が高い
〇消臭・漂白作用がある
〇人体に悪影響を及ぼす

『混ぜるな危険!』は、次亜塩素酸ナトリウムがアルカリ性であるため、酸性のものと混ぜることで有害な塩素ガスが発生するので危険ですよ、ということなんですね。

次亜塩素酸

いわゆる次亜塩素酸水として売り出されている商品の主成分になります。次亜塩素酸は、法律上消毒液として認められてはおらず、食品の消毒のために使用される食品添加物に分類されます。
消毒薬はヒトやモノに使用するものなので、厳密には塩素系消毒薬とは言えないんですよね。

主な特徴は以下の通りです。
〇酸性から中性である
〇分解されやすく、安定性が低い
〇消臭作用はあるが、漂白作用はない
〇人体への安全性が高い

次亜塩素酸ナトリウムを使用する際の注意点

次亜塩素酸ナトリウムは、ハイターやミルトンを使うことで比較的安価に作ることができます。
ハイターはご自宅に1つはおいてあると思いますので、いざとなったときに使用できるように知識を入れておきましょう!

濃度に関する注意点

次亜塩素酸ナトリウムは、どのように使用するかで、調節する濃度が変わります。

0.02%~0.05%‥日常清掃用。嘔吐物や排泄物が直接ついていない場所や物に使用する。
0.1%‥嘔吐物や排泄物の処理用。嘔吐物や排泄物などで汚染された場所や物に使用する。

濃度を表す単位には、ppmというものもあります。普段の生活では見ることない文字ですよね。
ppmとは、「parts per million」の略で、訳すと「100万分の1」という意味です。%の値が小さくなった時に便利に表すことができます。
『100ppm=0.01%』と覚えておくと良いでしょう。今回のケースで考えると、0.02%の次亜塩素酸ナトリウム=200ppmの次亜塩素酸ナトリウムとなります。

ちなみに、一般的なハイターの原液は6%、ミルトンの原液は1%になっています。薄める方法に関しては、こちらを是非参考にしてみてください。

ヒトやモノへの影響に関する注意点

次亜塩素酸ナトリウムの原液は、pHが12以上の強アルカリ性です。皮膚に触れればやけどのような症状がでることがありますし、目に入れば失明のリスクがあります。
1%以上の濃度において、化学損傷のリスクが高いと言われていますので、取り扱いには注意が必要です。
仮に0.1%まで薄めたとしても、ヒトの皮膚に直接触れるようなことは避ける必要があります。手や指の消毒には絶対に使用しないでください。取り扱いの際は、ビニール手袋などを使用した方が良いでしょう。

モノへの影響はどうでしょうか?
次亜塩素酸ナトリウムには、漂白作用金属腐食作用があるため、色落ちしやすいものや金属に使用する際は注意しましょう。どうしても金属に使用する際は、使用後しばらくしてから水拭きでふき取りましょう。
また、ゴムや樹脂製品への使用についても、劣化させる恐れがあるので避けましょう。

使用時の注意点

次亜塩素酸ナトリウムを使用する際は、マスクと手袋を使用し、換気をすることを推奨します。

次亜塩酸ナトリウムを使用したモノや場所は、必ず水で洗い流すか拭き取りましょう。特に高濃度で使用した場合は注意が必要です。残存している次亜塩素酸ナトリウムが酸性のものと反応するリスクがあります。

原則として、薄めた次亜塩素酸ナトリウムは、使い切ることを推奨します。
もしも保管する場合は、光が当たる場所や高温になる場所を避け、ラベリングをしたうえで、子供の手の届かない場所に保管しましょう。
保管の期限は24時間が理想ですが、保管する環境が整備されている場合、0.02%であれば1週間、0.1%であれば1ヶ月間、効果を保つというデータもあります。

次亜塩素酸水を使用する際の注意点

次亜塩素酸水は、安全性が高く効果も良いため、一見完璧と思えますが、注意しなければいけない点が多々あります。

安全に、かつ効果的に使用するために、以下の注意点に気をつけましょう。

保管に関する注意点

次亜塩素酸は、紫外線によって簡単に分解されてしまいます。紫外線に長時間さらされれば、その効果はゼロになると思っていたほうが良いでしょう。
専用の容器にいれたまま、直射日光や高温多湿を避けて保管しましょう。

また、使用期限が記載のないものがありますが、どれだけ保管方法に注意しても、次亜塩素酸は少しずつ分解されていきます。2年以上経ったものは、基本的に使用しない方が良いかと思われます。

濃度に関する注意点

次亜塩素酸は有効濃度の範囲内で使用する必要があります。そのため、大量に使用する場合を除いて、使用する場所はある程度乾燥していなければいけません。例えば、濡れている手に使用した場合、効果を発揮したい場所である手についた瞬間に、その濃度が薄まってしまうため、期待する効果が得られません。

ちなみに、次亜塩素酸水は、次亜塩素酸ナトリウムと異なり、商品によって濃度がまちまちです。安定性が低いことと安全性が高いことを考えると、濃度は高めのものを選んでおいた方が良いと考えます。

厚生労働省の資料を参考にすると、コロナウィルスに対する効果を期待する場合、流水でかけ流しで使用する際は35ppm以上拭き掃除に使用する際は80ppm以上汚れが目立つ場所に使用する際は200ppm以上を推奨しております。

使用時に関する注意点

次亜塩素酸は、有機物とすぐさま反応して細菌やウィルスを殺菌・不活化させます。この反応の速さは素晴らしい特徴なのですが、細菌やウィルス以外の有機物にも反応してしまいます。

どういうことかというと、汚れがついているときに次亜塩素酸を吹きかけると、ウィルスと反応する前に汚れの原因となっているタンパク質などに反応してしまい、すぐさま分解されてしまいます。
これでは全く効果が得られません。

薬剤師さん
薬剤師さん

次亜塩素酸水を布巾に吹きかけてから使用される事例を見かけることがありますが、テーブルやイスを拭くころには、次亜塩素酸は全て布巾の汚れに反応してしまい、ただの水拭きになってしまいますので、そのような使用方法は避けましょう。

次亜塩素酸水を空間噴霧で使用する方法がありますが、これも推奨できません。いわゆる空間除菌というものを意識しているのかと思われますが、2023年現在、空間を消毒できると認定された薬剤はありません。

空気中の浮遊ウィルスの対策には、消毒剤の空間噴霧ではなく、換気を行うようにしましょう!

塩素消毒に使用できるオススメ商品

今まで使用方法やその注意点などについて説明しましたが、実際にオススメできる商品を紹介します!

キッチンハイター

本来は消毒商品ではなく、掃除用品としての目的で販売されているハイターシリーズ。皆さんのご自宅にも一つはあるのではないでしょうか?
比較的安価で容易に手に入れることができるハイターは、次亜塩素酸ナトリウムの代表格と言えるでしょう。

ハイターにはいくつか種類がありますが、種類ごとに有効成分が異なります。今回はキッチンハイターをお勧めしましたが、各ハイター関連商品について解説しておきたいと思います。

以下の商品は、次亜塩素酸ナトリウムの消毒薬として使用可能な商品です。

ハイター‥主成分は、次亜塩素ナトリウム水酸化ナトリウム。水酸化ナトリウムは強アルカリ性なので、取り扱いには十分に注意してください。次亜塩素酸ナトリウムの濃度は6%です。

キッチンハイター‥上記のハイターに、界面活性剤である、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウムを加えた商品です。洗剤の一種で、汚れも一緒に落としてくれます。次亜塩素酸ナトリウムの濃度はハイターと同じく6%です。

ブリーチシリーズ‥ハイターは花王の商品名であり、他社が類似した商品を販売する際は、「ブリーチ」という言葉を使用するケースが多いです。濃度はそれぞれ5~6%とばらつきがあるので、ご自身で確認をお願いします。。

ハイターシリーズは、消毒薬として使用する際の希釈方法などについても解説ページがあるので、安心して使用できるのではないでしょうか。

次に、名前が似ているために勘違いしがちな、次亜塩素酸ナトリウムの消毒薬として使用できないものを紹介したいと思います。

ワイドハイター‥主成分は過酸化水素水であり、次亜塩素酸ナトリウムは使われていません。全く別物なので注意しましょう。

ハイドロハイター‥主成分は二酸化チオ尿素であり、次亜塩素酸ナトリウムは使われていません。全く別物なので注意しましょう。

トイレハイター‥主成分は次亜塩素酸ナトリウムではあるのですが、その濃度が公表されておらず、また、液体の性状も粘性があることから、消毒薬としての使用は避けるべきでしょう。

ミルトン

ミルトンは殺菌消毒薬として認可が下りている、一般用医薬品に分類されます。
そのため、有効性や安全性のデータは十分であり、非常にお勧めしやすい商品になります。

使用されている主要成分は次亜塩素酸ナトリウムのみであり、用法用量通りに使用していただければ安全性は非常に高い商品です。赤ちゃんに使用するモノの除菌に使用されるのも納得です。

ただ、一般家庭においては、敢えてこの商品を消毒薬として用意する必要性はないかもしれません。
価格が高いということと、口にすることのないモノへの除菌は、キッチンハイターでも十分ですからね。

iPosh(アイポッシュ)

iPosh(アイポッシュ)は次亜塩素酸水を使用した製品で、使用するうえで大きな問題はないと考えています。

次亜塩素酸水を使用した商品を選ぶ際は、以下の点をチェックして選ぶようにしましょう。

〇濃度は適切か?⇒200ppm以上を推奨。80ppm未満はオススメできない。表示されていないもとうめいh
〇pHは適切か?⇒次亜塩素酸水はpHによって効果に差が出る。皮膚への安全性も考慮して、pHは4.0~6.5の範囲内を推奨。
〇有効期限が設定されているか?⇒次亜塩素酸水は、安定性が非常に低いので、2年以上問題なく使用できるということは考えにくい。期限が明確に記載されていないものは避けるべき。安定性のデータがあるものが理想。
〇商品の容器は適切か?⇒次亜塩素酸水は、紫外線に非常に弱いので、遮光性の低い透明なプラスチックなどを使用した商品は避ける。

さて、アイポッシュがどうかというと、

〇濃度が表示されているか?⇒200ppm
〇pHが表示されているか?⇒6.0±0.5
〇有効期限が設定されているか?⇒製造から1年、安定性のデータあり
〇商品の容器は適切か?⇒遮光性に大きな問題なし

ということで、まず問題ないでしょう。

薬剤師さん
薬剤師さん

一点気になる部分を挙げると、空間噴霧を推奨していることですね。
私は、空間噴霧は一切オススメしないことを断言しておきます。

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