学校薬剤師になった私が伝えたい10のこと ~虫よけについて~

皆さんは虫よけを使ったことはありますか?

とあるアンケートでは、蚊のいる時期において常に虫よけ対策をしている人の割合が約50%ということで、虫よけが私たちの生活の中で当たり前の商品となっていることがうかがえます。

虫よけと聞くと、「蚊に刺されるくらい気にしないよ!」なんて方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、虫よけは場合によっては命を守るためにも使用すべき医薬品となるケースもあります。

そんな虫よけですが、皆さんはきちんと成分やその特徴を理解して使っていますか?
この記事では、虫よけに関する知識を余すことなく詰め込みましたので、楽しく学んで、これからの皆さんの生活に役立ててください!

虫よけの総論

虫よけは、いわゆる吸血害虫と呼ばれる、蚊やブヨ、ノミなどに対して有効な商品です。
一体どうやってこれらの昆虫に対して虫よけ効果を発揮するのでしょうか?実は、正確なことは未だ解明されていないのですが、以下の説が有効とされています。
蚊などの吸血害虫は、人間の呼気や皮膚呼吸によって排出される炭酸ガス(CO)を感知することで吸血源を探索します。虫よけは、皮膚に塗布された後、徐々に揮発することで、蚊などの吸血害虫の触覚に作用し、炭酸ガスのを感知させにくくすることで効果を発揮するという仕組みになります。
そのため、虫よけと言っても、炭酸ガスに反応しない、ハチやアリ、ケムシなどには効果がありません。

今では一般人が使用する馴染み深い虫よけですが、もともとは戦争におけるジャングル戦の対策として開発された経緯があります。当時、虫を媒介とした感染症で多く兵が苦しめられたことが開発のきっかけだったようです。

主な虫よけの成分として、ディートイカリジンの2種類が挙げられます。日本で販売されている虫よけの有効成分のほとんどはこの2つのうちのどちらかです。
日本皮膚科学会でも、この2種類の虫よけ効果は優れていると認められています。

この2種類の違いを非常にザックリ伝えると、効果が強いのがディート、安全性が高いのがイカリジンといえます。
ここでいう「効果が強い」というのは、特定の虫に対する効果の強さではなく、有効な虫の種類の数と考えてもらうと良いでしょう。例えば、蚊はどちらの成分も有効であるため、蚊に対する効果はどちらも同程度と言えます。
「安全性」についても、使用方法さえ守ればディートを使用しても心配しすぎることはありません。逆を言えば、ディートを安全に使用するためには少し注意が必要になるということですね。

ディートもイカリジンも、商品によって濃度が異なります。濃度が濃くなると、効果が強くなると思われがちですが、それは間違いです。効果の強さは低濃度も高濃度も同じです。では、何が違うのかと言いますと、効果の持続時間になります!
これは結構勘違いされがちなので、注意しておきましょうね。

ということで、今回は、このディートとイカリジンの2種類の虫よけについて詳しくお話していきたいと思います。また、天然由来のアロマ・ハーブ関連についても簡単にお話していきますので、どうぞ楽しく学んでいってください!

ディート

基本情報

総論でもお話ししましたが、ディートはイカリジンよりも多くの虫に対して有効です。ディートで効果があるとされている虫の種類は、蚊、ブヨ、アブ、マダニ、イエダニ、トコジラミ(ナンキンムシ)、ヤマビル、ノミ、サシバエ、ツツガムシとなります。
赤文字で表記した、ノミ、サシバエ、ツツガムシの3種類は、現在ディートだけが効果があるとされています。(※ツツガムシは、30%ディートのみ適応あり)

同じく総論で安全性についても触れましたが、人体への影響については、後述する「安全性について」の項目を参照してください。
ここでは、人体への影響とは別に、注意しておくべき2つの特徴について説明します。

①特徴的な匂い‥現在販売されている製品では、香料を使用することで匂いがマスキングされていますが、香料が苦手な方には不向きでしょう。

②繊維・樹脂への影響‥高濃度のディートにより、ストッキングやスポーツウェアなどに用いられるポリウレタン系の繊維・樹脂を変質させることが確認されております。ディートの濃度や付着する量、服の素材によって影響度は大きく変わりますが、お気に入りの服を着るときは注意しておいた方がよさそうですね。

濃度による違い

ディートを含む製品には、濃度によって効果や分類、使用方法に差があります。今回は、市販薬でよくみられる、10%と30%の違いについてお伝えしていきます。

10%製剤
 〇効果時間は3~4時間程度(目安)
 〇防除用医薬部外品(誰でも販売可能)
 〇年齢制限 
  6ヶ月未満‥使用不可
  6ヶ月以上 2歳未満‥1日1回(※)
  2歳以上 12歳未満‥1日2~3回(※)
  12歳以上‥使用制限なし
  (※) 顔には使用不可

30%製剤
 〇効果時間は5~8時間程度(目安)
 〇第二類医薬品(薬剤師や販売登録者が販売)
 〇年齢制限
  12歳未満‥使用不可
  12歳以上‥使用制限なし

ディートの濃度はいくつか種類がありますが、12%以上のものが医薬品となります。
以前は12%製剤までの商品しかなかったのですが、日本でもデング熱が発生したことなどを受け、2016年より30%製剤が販売されるようになりました。

安全性について

総論の部分で、イカリジンはディートより安全性が高いと説明しましたが、ディートの安全性はどうなのでしょうか?日本では、50年以上にわたって使用されていますが、重篤な健康被害の報告はありません。イカリジンよりも、ずーっと前からディートは使用されていたんです。

このディートの安全性について、懸念の声が上がるようになったきっかけが海外の実験です。動物実験において、神経毒性の危険性を示唆する結果がでたのです。ただ、この実験は、試験方法に不備があるとの指摘もあり、評価に疑問が残る結果となっています。
日本では、この実験の結果をうけ、カナダの規制をもとに、小児への使用方法を従来よりも厳しく設定し、上記に挙げた年齢制限が設けられました。

海外で実際報告された事例に、人への健康被害がいくつかありますが、海外の商品はディートの濃度が30%を超えている(イギリスでは、最大95%濃度の製品が販売されている)ため、日本の商品に対して単純に当てはめることはできません。

重篤ではないですが、注意しておくべき安全性情報としては、目や皮膚に対する刺激性が指摘されています。厚生労働省の資料によると、目に対する刺激は中等度とされ、皮膚に対しては発疹や痒みを引き起こすリスクが指摘されています。

薬剤師さん
薬剤師さん

〇顔に使用する際は、目に入らないよう十分注意する。(12歳未満は顔に使用不可)
〇肌の弱い方が使用する場合は、腕など一部から試してみる。

などを心掛けてみましょう。

イカリジン

基本情報

イカリジンで効果があるとされている虫の種類は、蚊、ブヨ、アブ、マダニ、イエダニ、トコジラミ(ナンキンムシ)、ヤマビル、となります。ディートと比べると劣りますが、使用目的として一般的な蚊による虫刺され防止が目的であれば、イカリジンもディートも効果に差はありません。

人体に対する安全性が高いイカリジンですが、他にも使用しやすい2つの特徴があります。

①匂いがない‥イカリジンには匂いがないため、無香料の商品が存在します。小さいお子さんや、匂いが苦手な方には嬉しいですね。敢えて香料を加えているケースもあるので、商品説明を必ずチェックしておきましょう。

②繊維・樹脂を傷めない‥イカリジンは溶解性が低いため、繊維や樹脂への影響がほとんど認められないとされています。ただし、イカリジン製剤として発売されている商品には、イカリジン以外の添加物が含まれているので、添加物による影響には注意しましょう。(添加物として、高確率でアルコールが含まれています。)

濃度による違い

イカリジンを含む製品は、濃度による差は効果の作用時間だけになります。使用方法なども変わるディートとは異なりますね。今回は、市販薬でよくみられる、5%と15%の作用時間の違いについてお伝えしていきます。ちなみに、いずれの製剤も、防除用医薬部外品に該当します。

5%製剤‥6時間程度(目安)
15%製剤‥8時間程度(目安)

マニアック情報
イカリジンは、ディートよりも分子量が大きく、蒸気圧も低いため、揮発せずに皮膚に残る時間が長いと考えられています。とある実験では、イカリジン15%を使用した事例で12時間後まで効果が持続したという結果もありました。(※効果の目安は、必ず購入した商品を参考にしてくださいね!)

安全性について

イカリジンの安全性については、非常に優れていると考えて問題ないでしょう。

小児の適応‥制限は一切なし。大人も子供も同じように使用できます。小さいお子さんのいる家庭であれば、大人も安心して使いやすいという利点がありますね。

目に対する刺激‥軽度な刺激性あり。ディートは中程度の刺激性とされている。危険性はディートよりは低いですが、顔に使用する際は注意が必要ですね。

皮膚への刺激‥刺激性はなし。健常人に、イカリジンの原液を直接皮膚に塗布した試験において、皮膚の異常を認めなかったというデータがあります。

薬剤師さん
薬剤師さん

個人的な意見になりますが、ディートが危険というよりも、イカリジンの安全性が非常に高いという表現が適しているイメージです。

アロマ・ハーブ関連

基本情報

一般的によく見かけるアロマ・ハーブ関連の虫よけは、医薬品や医薬部外品に該当しません。そのため、どんな商品であっても薬機法(薬関連の法律)に基づく効果や安全性にチェックを受けることなく販売されてしまうということは頭に入れておいてください。

天然由来の成分の中では、レモンユーカリ油が有効性の高い成分とされています。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)では、ディートやイカリジンに並んで、虫よけとして推奨されています。
その効果は、10%ディートと同程度と言われているようです。ただし、日本国内でデータはなく、医薬品としての規制が無い状態で販売されているので注意しましょう。

レモンユーカリ油以外にも、様々なハーブ・アロマで虫よけ効果があるとされていますが、「登山に行く」とか、「絶対に蚊に刺されたくない」というような場合は、ディートやイカリジンを選ぶことをオススメします。

安全性について

天然=安全と思いがちですが、猛毒で有名なトリカブトだって天然です。アロマやハーブであっても、安全と考えて何も考えずに飛びつくことは避けましょう。
虫よけに限らず、天然由来をうたった商品による有害事象の報告は後を絶ちません。

今回は、レモンユーカリ油の注意点についてお伝えしておきます。
レモンユーカリ油には、シネオールという成分が含まれており、呼吸や神経に影響を及ぼす可能性が示唆されています。そのため、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)では、3歳未満には使用しないこととされているので注意しておきましょう。

製品の形状について

ディートやイカリジンの配合された商品はたくさんあるのですが、形状もいくつか種類があります。

①ポンプスプレータイプ

薬液をミスト状にして振りかけるタイプ。添加物にアルコールを含むことが多い形状です。
顔や首に使用する際は、一度手に吹きかけてから、目や口に入らないように注意して塗ると良いでしょう。

②エアゾールスプレータイプ

エアロゾルと呼ばれる細かな粒子で薬剤を塗布します。誤って吸い込んだり、目に入る可能性が高いタイプなので、小さいお子さんに足しては使用しない方が良いでしょう。
また、塗布量にムラができやすいので注意しましょう。

使用開始後も、虫よけ成分が劣化しにくいことが利点でしょう。

③ジェルタイプ

手にジェルを取ってから体に塗るタイプ。確実に塗布することができるのが利点です。

30%ディートなどの医薬品に該当する製剤では、この剤形はありません。

④ウェットティッシュタイプ

薬液をしみこませたウェットティッシュで、直接肌に塗布します。汗を拭きとりながら使用もできるので、使い心地は良いかもしれません。
保管の際は、薬液が外気にさらされないよう注意しましょう。

ジェルタイプと同様に、医薬品に該当する製品はありません。

商品の使い分け

近日公開予定です(-_-;)

少々お待ちくださいませ<(_ _)>

虫よけQ&A

日焼け止めとの併用について

日焼け止めと併用するときはどちらから使用したら良いですか?

必ず日焼け止めから先に使用するようにしましょう!
虫よけは、揮発することで効果が出ます。
ですので、虫よけを使用してから日焼け止めを塗ってしまうと、虫よけの成分が揮発しずらくなってしまい、効果が発揮できなくなってしまうのです。

妊婦への使用について
ママさん
ママさん

妊婦も虫よけスプレーを使えますか?

妊婦に対して禁忌(使用不可)である成分はありません
ディートやイカリジンで催奇形性の報告は見当たりませんでしたので、過度に怖がる必要はないでしょう。

厚労省発表の「ジカウィルス感染症Q&A」の資料中にも、「ディートも含め、原則使用可能」との記載があります。ただし、ディートは傷のある部位や粘膜面への噴霧は避けるよう注意書きもされています。どの製剤であっても、体内に吸収されないような工夫が必要でしょう。

使用期限について

購入した虫よけに使用期限が書いていないのですが、いつまで使用できますか?

使用期限が書いていない場合、医薬品や防除用医薬部外品であれば、製造から3年と考えてください。
開封後の期限については、明確な基準はなく、成分や製剤の種類によって差が出ると考えられます。商品によっては、会社のホームページに目安が書かれているものもあります。

医薬品・医薬部外品・防除用医薬部外品・化粧品に該当する商品は、薬機法という法律にしたがって、厚生労働省の許認可をもとに製造販売されています。薬機法上、これらの商品に関しては、製造後に3年以上のを超えて使用可能な場合、その期限を記載しなくても良いとされています。

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