介護施設で使われやすい薬 100選 ~利尿剤~

今回紹介する薬は、利尿剤です。高齢者の薬物治療において、欠かすことのできない薬の一つと言える大切な薬です。私も普段から調剤している薬になります。

利尿剤の主な使用目的として、高血圧、浮腫、心不全の治療などが挙げられます。

今回は、利尿剤の中でも有名な、フルイトラン(トリクロルメチアジド)、ラシックス(フロセミド)、アルダクトン(スピロノラクトン)について説明していきます。おまけに、比較的新しい薬であるサムスカ(トルバブタン)についても触れたいと思います。

※薬は商品名で記載しており、カッコ内に成分名を記載しております。
平成17年より、ジェネリック名は基本的に成分名+会社名とするように通知がでたため、ジェネリック医薬品の商品名は基本的に成分名になっています。

利尿剤について知っておいて欲しいこと

最初に、利尿剤を使用するにあたって覚えて欲しいことをお伝えしておきます。

〇利尿剤が処方された際は、脱水に注意する

ご存じの方も多いかと思いますが、高齢者は体の水分量が低下しているため、脱水のリスクが高くなっています。また、喉の渇きを感じにくい傾向もあるので、周りの方で注意しておく必要があります。
唇や口内の乾燥、脇の下の汗、爪の状態などをチェックしながら、水分摂取を心掛けましょう。

〇利尿剤を服用すると、電解質異常が起こる可能性がある

利尿剤の多くは水だけでなく、ナトリウムやカリウムなどの電解質の排泄・再吸収に影響を及ぼします。定期的に血液検査をすることで、副作用を初期で発見することができますが、薬の併用や下痢・嘔吐等により、急激に悪化することもあるので注意が必要です。
今回は、低カリウム血症と高カリウム血症について簡単に説明しています。気になる症状があったときは、医師やかかりつけ薬剤師に相談してみてください。

〇利尿剤にはいくつか種類があり、目的に応じた使い分けがある

「利尿剤=浮腫みを取る薬」というイメージがあるかと思いますが、利尿剤にはそれ以外にも様々な役割が存在ます。また、その薬ごとに特有の注意点があるため、どの利尿剤をどの程度使用するかは、患者さんによって異なります。
今回、4種類の利尿剤の特徴について説明しますが、もしも気になることがあれば、医師やかかりつけの薬剤師に相談してみたくださいね。

〇利尿剤で効果があるケースと無いケースがある

利尿剤というと、足の浮腫(余分な水分)を尿へ排出するイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。実は、利尿剤はむくんでいる部分の水分を排出しているのではなく、血液中の水分を排出しています。
そのため、そもそも浮腫のある部分から血管に水分が戻らなければ、いくら利尿剤を使ってもその効果に限界があるということは覚えておきましょう。

ここまで、利尿剤全般の基本的なところをお話させていただきました。
ここからは、それぞれの利尿剤の特徴についてお伝えしていきます。

ラシックス(フロセミド)

ラシックスの特徴

利尿剤の中で最も使用される薬が、このラシックスではないでしょうか?
ループ系利尿薬に分類される薬で、主に浮腫に対して使用されます。3タイプの中で、ループ利尿薬が最も利尿作用が強いとされています。

利尿剤を飲むと、尿量が増えるためトイレが近くなります。これは薬の性質上しかたがありません。
では、この利尿作用はいつまで続くのでしょうか?今回紹介しているラシックスの場合、作用時間は6時間と言われています。この作用時間を考えれば、朝~昼食後までに飲んでいれば、ラシックスのせいで夜間にトイレで目が覚めるという心配はいらないでしょう。

薬剤師さん
薬剤師さん

ちなみに、ラシックスという商品名は、last(続く)+six hour(6時間)を組み合わせたものだそうです。これで作用時間は忘れませんね!

ラシックスの副作用

ラシックス(フロセミド)を始めとしたループ系利尿薬は、水やナトリウムと共に、カリウムを排泄させる作用があるため、低カリウム血症に注意が必要となります。薬を飲み始めてから手足の脱力感や筋肉痛、動悸などの症状が気になるようであれば、一度医療従事者に相談してみましょう。

低K血症の症状として、手足の脱力感、筋肉痛、動悸などの症状があります。ただし、軽度では、これらの症状は出にくいと言われています。
血液検査でK値を調べることで診断することができます。
K値を下げる主な薬剤として、今回紹介した利尿剤(ループ、サイアザイド系利尿薬)や、甘草(生薬の一部で漢方薬によく含まれる)、ステロイド、インスリンなどがあります。

参考までに、他のループ系利尿薬についても2種類ほど簡単に紹介しておきます。

〇ダイアート(アゾセミド)‥作用時間が長い。心不全の予後良好のデータあり。
〇ルプラック(トラセミド)‥作用時間が長い。カリウムを保持する作用もあるので、ループ系利尿薬の中では、低カリウム血症にはなりにくい。
参考までに、利尿作用の強さとしては、フロセミド40mg≒アゾセミド60mg≒ルプラック8mgとなります。

フルイトラン(トリクロルメチアジド)

フルイトランの特徴

サイアザイド系利尿薬に分類される薬で、主に高血圧の治療に用いられることが多い薬です。利尿作用はラシックスに比べると弱いですが、長時間にわたってナトリウムの排泄を促すことで、ラシックス以上の降圧作用を示します。ナトリウム感受性が高い方には効果的な高血圧治療薬になります。

ちなみに、高血圧治療薬のアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)というタイプとの相性がよく、この2種類を組み合わせることで血圧をしっかり下げることができます。

今では当たり前のように見かける合剤(2種類以上の薬を合わせたもの)ですが、その先駆けとなったのが、ARB+利尿剤の組み合わせでした。それくらい相性が良いのです。
ちなみに、使用されている利尿剤は、通常量よりも少ない量となっています。

フルイトランの副作用

フルイトランを始めとしたサイアザイド系利尿薬は、ループ利尿薬以上に電解質異常などが起こりやすいと言われています。具体的には、低ナトリウム血症、低カリウム血症、高カルシウム血症、高尿酸血症、脂質代謝異常、耐糖能異常などが副作用として報告されています。

これらの副作用対策として、通常の適応量よりも少量使用することが一般的になっています。使用量を減らすことで、降圧作用はあまり変わらず副作用リスクを下げるというデータが出たためです。
フルイトランは、添付文書上では、1日に2~8mg使用すると記載されていますが、高齢者に対しては2mg以下で使用されることの方が多いでしょう。

薬剤師さん
薬剤師さん

私の経験では、特殊な疾患を除いて、高齢者に対しては0.5~2mgの範囲での使用がほとんどですね慢性腎不全や透析など、特殊な疾患の場合は、2mgを超えるケースも多く経験しています。

アルダクトン(スピロノラクトン)

アルダクトンの特徴

アルダクトンは、カリウム保持性利尿薬と呼ばれ、心不全に対してよく使用されます。心不全の患者さんに対してアルダクトンを使用したことで予後が改善するという研究結果があるんです。

当然、他の利尿剤と同じように、血圧を下げたり、浮腫みを改善させる目的でも使用されます。その際、心不全と診断されていなくても、心臓の負担を軽減することを期待してアルダクトンが選ばれることもあります。

他にも、腹水に対して有効なケースも多くみられます。利尿作用はあまり強くはないので、ラシックス(フロセミド)と併用することで相乗効果が得られます。
また、カリウム値を上げるという特徴から、低カリウム血症を予防する目的でもラシックス(フロセミド)と一緒に処方されるケースも多くみられます。

薬剤師さん
薬剤師さん

ラシックス+アルダクトンの組み合わせは非常によくみかけます。目的は、利尿作用の増強だけではなく、副作用予防ということも目的になっているんですね

アルダクトンの副作用

アルダクトンは今まで紹介した、ループ系利尿薬やサイアザイド系利尿薬と異なり、カリウム値を上げるため、高カリウム血症に注意する必要があります。

高K血症の症状として、悪心、嘔吐、痺れ、脱力感、不整脈などが挙げられます。ただし、軽度では、これらの症状は出にくいと言われています。
血液検査でK値を調べることで診断することができます。
K値を上げる主な薬剤として、今回紹介したカリウム保持性利尿剤や、ARBとACE-I(高血圧や心不全等の治療薬の一種)、カリウム製剤、NSAIDs(痛み止めの一種)などがあります。

他にも、アルダクトン特有の副作用として、女性化乳房(男性の胸が発育する)、性欲減退、月経不順などと言った、性機能に関連した副作用も報告されています。女性化乳房の副作用報告は、10%程度とも言われているので、男性が薬を飲み始めてから胸の張りや痛みを訴えることがあれば医師に相談してみましょう。

アルダクトンの類似薬

〇セララ(エプレレノン)‥アルダクトンに特有の女性化乳房などの性ホルモンに関連する副作用が非常に少ない。浮腫に対する適応はなく、高血圧や心不全に使用される。

薬剤師さん
薬剤師さん

浮腫の治療目的であれば、カリウム保持性利尿薬として使用されるのは、アルダクトンの一択と考えて良さそうですね。

サムスカ(トルバブタン)

サムスカの特徴

サムスカは、今まで紹介した薬と異なり、水のみを排出させる薬です。主に、心不全や肝硬変などによる浮腫に対して使用されます。

今までに記載した、ラシックス(フロセミド)やアルダクトン(スピロノラクトン)などを使用しても改善しないケースや、副作用の兼ね合いで増量が難しい場合に、追加して使用する薬になります。サムスカ単独で処方されるということはありません。

大きな特徴の一つとして、この薬を初めて飲むときは入院を必要とすることです。投与初期に血中のナトリウム濃度を定期的に測る必要があるためです。ですので、外来や施設入所中にサムスカが新規処方されることはありません。

薬剤師さん
薬剤師さん

令和年時点で、サムスカは、他の利尿剤と比べると非常に高価です。患者さんや介護者さんから驚かれることもしばしば。ジェネリック医薬品も発売されたので、状況に応じて検討する価値があるかと思います。

サムスカの副作用

サムスカの副作用として知っておいて欲しいことが、脱水と高ナトリウム血症です。
口喝などの訴えがあるときは、必ず水分補給を心掛けましょう。他の利尿剤と比べて作用が強力な分、より注意が必要となります。
また、高ナトリウム血症は意識障害を引き起こすことがあります。水分不足が続いた状態で、口喝が続いたり、意識レベルが低下するようなときは要注意です。
サムスカを服用中は、水分を適切に取れているかを必ず確認しておきましょう。

補足情報として、サムスカはグレープフルーツと併用することで血中濃度が上がるため、副作用リスクがあがります。サムスカを飲んでいる方は控えた方が良いでしょう。

薬剤師さん
薬剤師さん

朝食後にサムスカを飲んで、夕食にグレープフルーツを食べるというケースも避けましょう。グレープフルーツが薬の代謝に与える影響は、1日以上続きます。サムスカに限らず、グレープフルーツに注意が必要な薬を飲んでいる間は、摂取は控えておきましょう。

まとめ(介護従事者の皆様へ)

ここまでご覧いただきありがとうございました。

様々な内容を記載したのですが、介護従事者の皆さんに伝えておきたいことをいくつかピックアップしておきますので、こちらの内容だけでも覚えておいていただければと思います。

〇利尿剤が処方されたときは、脱水のリスクが高まるので、水分摂取量に気を付けておきましょう。特に、サムスカ(トルバブタン)を飲んでいる場合は要注意です。

〇利尿剤には血圧を低下させる作用があります。血圧が低くなっているときは、一度医師に相談してみてください。血圧が低くても、心不全などの治療のために継続されるケースもありますので、自己判断での中止は避けましょう。

〇利尿剤には電解質異常という副作用リスクがあります。高カリウム血症や低カリウム血症については、頭の片隅に入れておいてもよいかもしれません。

〇利尿剤の使用目的は様々です。疑問に思うことがあれば、かかりつけの薬剤師に相談してみてください。

ついつい力が入ってたくさんの内容を記載しましたが、少しでも皆さんのお役にたったら何よりです。

こちらの記事で気になる点などございましたら、ご指摘・ご質問いただければと思います。もちろん、私に直接お話しいただいても大丈夫ですよ!

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