介護施設で使われやすい薬100選 ~認知症治療薬~

今回紹介する薬は、認知症治療薬です。2020年時点で、65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症と言われています。認知症患者数はこれからも増えることが予想されるので、これからも使用されるケースの多い薬と考えられるでしょう。

今回は、2022年時点で、認知症治療薬として販売されている、アリセプト(ドネペジル)レミニール(ガランタミン)リバスタッチ・イクセロン(リバスチグミン)メマリー(メマンチン)の4種類について説明していきます。

※薬は商品名で記載しており、カッコ内に成分名を記載しております。
平成17年より、ジェネリック名は基本的に成分名+会社名とするように通知がでたため、ジェネリック医薬品の商品名は基本的に成分名になっています。

認知症について

中核症状と周辺症状(BPSD)

認知症の症状は、中核症状と周辺症状に分けられます。

中核症状‥脳が障害を受けることで起こる直接的な症状
記憶障害、見当識障害、実行機能障害、理解力・判断力の低下、など

周辺症状(BPSD)‥中核症状に伴い、副次的に表れる症状
不眠、意欲の低下、幻覚、妄想、徘徊、摂食障害、物盗られ妄想、など

今回紹介する、認知症治療薬というのは、主に中核症状の進行を抑制することを目的としています。周辺症状に使われる薬は、また別の機会に。

認知症の種類

アルツハイマー型認知症

〇認知症の中で最も患者数が多い疾患で、6~7割がアルツハイマー型認知症と言われています。

〇他の認知症と合併しているケースも頻繁に見られます。

〇薬物治療以外にも、リハビリテーションや他社との交流、運動、趣味を楽しむなど、非薬物療法も重要とされている。

〇症状の進行は非常に緩やかなため、発症に気づかないケースもある。軽度認知障害(MCI)という、アルツハイマー型認知症の一歩手前の状態を表す言葉もあります。MCIの場合、症状を改善させることができるので、やはり早期発見・早期受診が大切と言えるでしょう。

血管性認知症

〇脳卒中(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞)の診断がされたことのない患者さんでも、隠れ脳梗塞を起こしており、発症するケースがあります。

〇ラクナ脳梗塞(小さな血管で起こる脳梗塞)の場合、発症した場所によって、症状に差があります。血流障害によって認知機能に影響が出るため、その日によっても症状に差が出ることがあります。まだら認知症と言われたりもします。

〇現時点で、認知症治療薬の適応はありません。効果があるという研究も出てきているのですが、有効性の根拠は不十分とされています。

〇脳梗塞の再発予防のための治療も必要となる。血圧管理など、薬物治療の継続が重要となるケースも多いため、コンプライアンス(薬をしっかり飲むこと)に注意する。

レビー小体型認知症

〇幻視が頻繁にみられる。見ず知らずの子供だったり、亡くなったパートナーだったり、様々です。かなりハッキリと見えているのが特徴です。

〇パーキンソン症候群の症状が現れやすい。主に、固縮や小刻み歩行など。アルツハイマー型認知症と比べると、10倍転びやすいと言われたりします。

〇抗精神病薬(BPSDに対して使用される)に対する感受性が高まるので、薬の投与は慎重に行う必要がある。

〇1日のうちで、意識レベルに差が出やすい。さっきまでパリッとしていたのに、急に傾眠傾向なんてことも。

前頭側頭型認知症

〇コリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト、レミニール、リバスタッチ・イクセロン)を使用すると、怒りやすくなったり、焦燥感が悪化したりすることがある。

認知症治療薬の共通点

2022年時点で発売されている認知症治療薬は、認知症の進行抑制効果を期待するものです。一時的に改善が見られれるケースもありますが、進行を止めたり、認知機能を回復させる効果はありません。

また、いずれの薬においても、認知機能改善効果に大きな差はありません。薬の使い分けに関しては、副次的な効果の部分や、剤形、副作用、患者背景、医師の臨床経験などが判断材料となるでしょう。

用法用量に関しても共通点があり、副作用予防の観点から、少量から開始して必要に応じて増量します。

認知症治療薬は、どの成分においても、添付文書に「本剤投与で効果が認められない場合には、漫然と投与しないこと。」という記載がある。
効果はどうか? 副作用は出ていないか? 患者さんの状態(寝たきりなど)をみて使う必要があるかどうか? などが中止の判断基準になってくるでしょう。

薬剤師さん
薬剤師さん

最近、「認知症の薬は意味がない」と言った意見を耳にすることがありますが、それは少し極端な意見かと思います。発症初期は有効性が高いですし、副次的な効果を狙うケースもあります。また、患者さんやその家族の思いも大切な要素です。

飲むor飲まない、続けるor中止する、この判断をしっかり行うためには、患者さんを中心とした、家族、医療従事者、介護従事者できちんと情報共有すくることが重要だと考えています。

アリセプト(ドネペジル)

基礎情報・特徴

〇日本で一番最初に発売された認知症治療薬であり、臨床データが豊富です。アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害剤というタイプ。

元気を出させるタイプ(アクセルのようなイメージ)の薬です。意欲低下や無関心、抑うつなどに対する改善効果が報告されています。

〇今回紹介している認知症治療薬の中で唯一、軽度から高度まで治療することができる薬です。

〇今回紹介している認知症治療薬の中で、唯一、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症に適応がある。(他は、アルツハイマー型認知症のみの適応)

用法・用量

1日1回 1回量3~10mg(症状に応じて調節します。スタートは必ず3mgから。)

~添付文書より抜粋~
通常、成人にはドネペジル塩酸塩として1日1回3mgから開始し、1~2週間後に5mgに増量し、経口投与する。高度のアルツハイマー型認知症患者には、5mgで4週間以上経過後、10mgに増量する。なお、症状により適宜減量する。

剤形・適応

剤形‥錠剤、口腔内崩壊(OD)錠、細粒、ドライシロップ、内用液、ゼリー

適応‥軽度~高度のアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症

副作用

消化器症状(食欲不振、吐き気、下痢など)‥投与初期や増量後に起こりやすい。軽度なものは様子を見ることで症状が治まることも多い。

不整脈(徐脈など)‥脈が遅くなる不整脈(徐脈)が多い。もともと不整脈を指摘されている方は注意が必要。個人差はあるが、脈拍が50回/分未満になるようであれば相談を。

易怒性‥怒りやすくなったり、イライラしやすくなる。

〇錐体外路症状(パーキンソン症候群)‥動きが鈍くなる、手が振るえる、小刻みに歩く、など。レビー小体型認知症の患者さんに起こりやすい。

レミニール(ガランタミン)

基礎情報・特徴

〇アリセプトの後に発売された薬で、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害作用の他に、ニコチン性アセチルコリン(Ach)受容体刺激作用を持ちます。実際の認知症抑制効果は、アリセプトや後述のリバスタッチ・イクセロンとほぼ変わらないと言われています。

〇認知症治療薬の中で唯一、1日2回服用するタイプのため、コンプライアンス(お薬をちゃんと飲めているかどうか)を考えると、少々使いずらいところがあります。水分摂取を促すなどを理由に、1日2回が好まれるケースもあります。

〇認知症治療薬の中で唯一、液剤タイプの薬が存在します。

元気を出させるタイプ(アクセルのようなイメージ)の薬です。基本的な効果や副作用はアリセプトに類似しています。

用法・用量

1日2回 1回量4mg~12mg(症状に応じて調節します。スタートは必ず4mgから。)

~添付文書より抜粋~
通常、成人にはガランタミンとして1日8mg(1回4mgを1日2回)から開始し、4週間後に1日16mg(1回8mgを1日2回)に増量し、経口投与する。なお、症状に応じて1日24mg(1回12mgを1日2回)まで増量できるが、増量する場合は変更前の用量で4週間以上投与した後に増量する。

剤形・適応

剤形‥錠剤、口腔内崩壊(OD)錠、液剤

適応‥軽度~中等度のアルツハイマー型認知症

副作用

基本的にはアリセプトと類似します。アリセプトと比較して、コリンエステラーゼ阻害作用が弱めのため、アリセプトよりも下記の副作用は起こりにくいのではないかと考える意見もあります。

〇消化器症状(食欲不振、吐き気、下痢など)‥投与初期や増量後に起こりやすい。軽度なものは様子を見ることで症状が治まることも多い。

〇不整脈(徐脈など)‥脈が遅くなる不整脈(徐脈)が多い。もともと不整脈を指摘されている方は注意が必要。個人差はあるが、脈拍が50回/分未満になるようであれば相談を。

〇易怒性‥怒りやすくなったり、イライラしやすくなる。

〇錐体外路症状(パーキンソン症候群)‥動きが鈍くなる、手が振るえる、小刻みに歩く、など。頻度は高くありません。

イクセロン、リバスタッチ(リバスチグミン)

基礎情報・特徴

〇アリセプトの後に発売された薬で、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害作用の他に、ブチルコリンエステラーゼ(BuChE)阻害作用を持ちます。実際の認知症抑制効果は、アリセプトやリバスタッチ・イクセロンとほぼ変わらないと言われています。

〇認知症治療薬の中で、唯一の貼付剤です。

〇認知症治療薬の中で、最も薬物相互作用が少ない薬です。

〇副次的な作用として、食欲を改善させるという報告があります。ブチルコリンエステラーゼ(BuChE)阻害作用による影響ではないかと言われています。

元気を出させるタイプ(アクセルのようなイメージ)の薬です。

用法・用量

1日1回、1枚貼付 1回量4.5mg~18mg(症状に応じて調節します。スタートは4.5mg、又は9mgから。)

~添付文書より抜粋~
通常、成人にはリバスチグミンとして1日1回4.5mgから開始し、原則として4週毎に4.5mgずつ増量し、維持量として1日1回18mgを貼付する。また、患者の状態に応じて、1日1回9mgを開始用量とし、原則として4週後に18mgに増量することもできる。
本剤は背部、上腕部、胸部のいずれかの正常で健康な皮膚に貼付し、24時間毎に貼り替える。

剤形・適応

剤形‥パッチ剤

適応‥軽度~中等度のアルツハイマー型認知症

副作用

基本的にはアリセプトと類似します。ただ、食欲不振の副作用は少ないと言われます。また、貼付剤のため、接触性皮膚炎に注意が必要です。

接触性皮膚炎‥貼付部位が赤くなったり、かゆくなったりします。保湿を心掛け、必要に応じてステロイドなどの塗布剤を使用することがあります。

〇消化器症状(食欲不振、吐き気、下痢など)‥投与初期や増量後に起こりやすい。軽度なものは様子を見ることで症状が治まることも多い。アリセプトやレミニールよりも少ないと言われます。

〇不整脈(徐脈など)‥脈が遅くなる不整脈(徐脈)が多い。もともと不整脈を指摘されている方は注意が必要。個人差はあるが、脈拍が50回/分未満になるようであれば相談を。

〇易怒性‥怒りやすくなったり、イライラしやすくなる。

〇錐体外路症状(パーキンソン症候群)‥動きが鈍くなる、手が振るえる、小刻みに歩く、など。頻度は高くありません。

メマリー(メマンチン)

基礎情報・特徴

〇NMDA拮抗薬と言われており、認知症治療薬の中で唯一、グルタミン酸受容体に作用する薬です。

〇今までに紹介した、アリセプトやレミニール、イクセロン・リバスタッチと異なる作用機序(効き方)のため、併用することができます。

〇腎臓で排泄される薬なので、腎機能が低下している患者さんに対しては用量に注意する必要があります。

気分を落ち着かせるタイプ(ブレーキのようなイメージ)の薬です。怒りっぽさや興奮などを改善させる作用が報告されています。これを目的に処方されることも少なくありません。

用法・用量

1日1回 1回量5mg~20mg(症状に応じて調節します。スタートは必ず5mgから。)

~添付文書より抜粋~
通常、成人にはメマンチン塩酸塩として1日1回5mgから開始し、1週間に5mgずつ増量し、維持量として1日1回20mgを経口投与する。

剤形

剤形‥錠剤、口腔内崩壊(OD)錠、ドライシロップ

適応‥中等度~高度のアルツハイマー型認知症

副作用

めまい‥投与初期に起こりやすい。浮動性めまいが多い。軽度の場合は、継続することで改善するケースもある。

眠気‥こちらも投与初期に起こりやすい。夕食後や寝る前などに服用することで対処するケースもある。

その他‥頭痛、便秘、血圧上昇、食欲不振など。頻度はそこまで多くはありませんが、気になるときは相談を。

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