家族がノロウィルスに罹ったら

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みなさんは胃腸炎にかかったことはありますか?

一度もかかったことがないという方は、あまりいらっしゃらないのではないでしょうか?

今回は感染性胃腸炎の中でも、もっとも注意が必要なノロウィルスについて説明します。
ノロウィルス以外の感染性胃腸炎でも基本的な注意事項は同じになりますので、どうぞ参照してみてください。

ノロウィルスの特徴

ノロウィルスは、その名の通りウィルスであり、細菌とは異なる特徴を持ちます。まず最初に、ノロウィルスの特徴を見てみましょう!

非常に強い感染力

ノロウィルスの感染力は非常に強力です。
ノロウィルスが10~100個程度口に入ると感染してしまいます。
ちなみに、感染者のふん便には、1g中に10億個のウィルスが存在し、嘔吐物には、1g中に100万個のウィルスが存在すると言われます。いかに感染力が強いかが分かりますね。

非常に小さいウィルス

ウィルスは細菌に比べて小さいことが特徴の一つですが、ノロウィルスはウィルスの中でも非常に小さいことが特徴です。
ウィルスが小さいと、次のような注意点が挙げられます。
〇手や指に付着すると、しわや指紋、爪と皮膚の間などに入り込み、手洗いで落としにくくなる。
〇嘔吐物が乾燥すると、塵や埃とともに空気中に舞いやすくなる。

抗生物質が効かない、ワクチンもない、培養もできない

ノロウィルスに対して特効薬があれば良いのですが、残念ながら現時点では存在しません
いわゆる抗生物質(抗菌薬)は無効ですし、ノロウィルス用の抗ウィルス薬やワクチンも開発されていません。

実は、現在の技術では、ノロウィルスを培養することはできません。そのため、ノロウィルスを不活化させる実験の多くは、ノロウィルスに類似したネコカリシウィルスを用いております。
ノロウィルスが培養できるようになると、もっと有効な手段が増えていくかもしれませんね。

不活化しにくい、圧倒的な抵抗力

私たちはいろいろな方法でウィルスを不活化(感染しない状態)するのですが、ノロウィルスは簡単に不活化されません。ノロウィルス(代替ウィルスも含む)の抵抗性について実験した研究結果が、以下のようになります。

pH‥酸に強く、胃酸で不活化されることはありません。(pH2.7で3時間感染性を保持)
加熱‥60℃で30分では不活化しなかった。
消毒‥アルコールは効果が弱い(75%エタノールに30秒つけても感染力は残る)
乾燥‥乾燥した状態では、室温で20日以上感染性を保持したデータあり
凍結‥冷凍では不活化させることはできない。

ご参考までに、ノロウィルスは、低温環境の方が生存期間が長くなるようです。乾燥状態の試験で、ウィルスの残存率が0.01%になるまでどれくらいかかるかを調べたものがあるのですが、20℃では21日程度、4℃では55日程度だそうです。水中でも同じような傾向がありました。
ノロウィルスが冬場に流行する理由の一つに、気温が低いことで生存期間が長くなることがあるようですね。

感染時の症状

ノロウィルスに感染したときの主な症状は、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、微熱になります。一般的には1~2日程度でおさまります。症状は強く出ることが多いですが、中には軽い方や全く症状が出ない方もいます。

高齢者や乳幼児は体力を奪われやすく、嘔吐物を吸い込むことによる誤嚥性肺炎や窒息などにも注意が必要です。

感染から発症までは、24~48時間程度と言われています。

ノロウィルスの感染経路

ノロウィルスの感染経路は、食品媒介感染、接触感染、飛沫感染などが挙げられます。
いずれの場合も、食品から直接ノロウィルスを摂取するか、ヒトからの二次感染かのどちらかになりますので、食品・嘔吐物・ふん便の3パターンについて考えてみようと思います。

食品からの感染

ノロウィルス=牡蠣、というイメージが強いではないかと思います。実際のところ、原因食品のNo.1は牡蠣で、次いで、その他の二枚貝とのことでした。(ノロウィルス食中毒2011より)
しかしながら、ノロウィルス食中毒の報告では、牡蠣を食べたことで感染した人よりも、調理者による食品汚染が原因となっているケースの方が多いということも覚えておきましょう!

ご自宅で牡蠣や二枚貝などを調理した場合、使用した調理器具にも十分に注意しておく必要があるということですね。

具体的な対策は後述しますが、
〇貝類の生食は控え、加熱処理をしっかり行う。
〇調理器具も衛生的に保つ。
ということを意識する必要があります。

余談にはなりますが、ウィルスは細菌と異なり、自己増殖することはできません。生きた細胞を宿主とすることで増殖します。
つまり、ノロウィルスは食品に付着しても、時間の経過とともに増える、ということはないんです。調理後すぐ食べたとしても、時間が経ってから食べたとしても、ウィルスによる感染リスクは変わらないんです!

嘔吐物からの感染

ノロウィルスに限らず、胃腸炎になった子供の嘔吐物の処理は、最も注意が必要です。初期対応が全てと言えるでしょう。嘔吐物がついたものがあちこちに移動したら、ノロウィルスをあちこちにばらまいているのと同じになってしまいます。

ノロウィルスは小さく乾燥に強いため、嘔吐物の処理が不十分だと、簡単に舞い上がって皆さんの口の中に入り込みます
これを塵埃(じんあい)感染なんて呼びます。あまり馴染みのない言葉ですね。

嘔吐物を処理するときは、マスクや手袋を装着して、ふき取ったものはすぐに袋にいれて厳重に縛って廃棄。衣類などは同じく廃棄するか、熱湯消毒、塩素消毒。嘔吐物がついていそうな場所は全て塩素消毒。

なかなか大変ですよね。子供が小さいうちは本当に苦労します。
具体的な対策は後述しますが、嘔吐物処理は本当に大変です。(実体験)

薬剤師さん
薬剤師さん

ちなみに、私の娘が胃腸炎で車の中で嘔吐したことがありますが、その処理が十分ではなかったようで、二次感染して丸1日寝込んだことがあります。

ふん便からの感染

ノロウィルスの症状は一般的に数日で快方に向かいますが、症状回復後もウィルスはふん便中に排泄されます。一般的に2週間は排出されると考えられます。中には、4週間にわたって排出されたというデータもあります。

オムツの処理をしている場合は、症状が改善した後も油断はできませんね。
お子様が小さいうちは、入浴も注意が必要となってくるでしょう。
また、当たり前の話にはなりますが、トイレの後の手洗いは非常に重要です。

具体的な対策は後ほど。

ノロウィルスの感染対策

家族にノロウィルス感染者が出たときに、どのようなことを注意したら良いでしょうか?4つの項目に分けて考えてみましょう。

手洗い

すべての感染症予防の基本ですね。

ノロウィルスなどの胃腸炎に感染している場合は、糞便中に多くウィルスが排泄されるので、手洗いは徹底しておきましょう。

手洗いの効果として、ウィルスの残存率を調べたデータがあるので紹介します。

手洗い方法ウィルスの残存率
流水で15秒手洗い約1%
ハンドソープで10秒、又は30秒もみ洗い後、
流水で15秒すすぐ
約0.01%
ハンドソープで60秒もみ洗い後、
流水で15秒すすぐ
約0.001%
「ハンドソープで10秒もみ洗い後、
流水で15秒すすぐ」を2回繰り返す
約0.0001%

通常時の手洗いであれば、残存率0.01%でも十分効果的でしょう。ただし、感染源に直接触れてしまったというような高リスクな状況下であれば、残存率はなるべく少なるくなるような手洗いを推奨します。
注意しておきたいこととして、肌のバリア機能は感染予防に非常に重要です。手洗いを頑張りすぎて手がボロボロになってしまうのも考えものですので、あくまで状況に応じた手洗いを行いましょう。

消毒

ノロウィルスなどの感染性胃腸炎にかかっていることが分かっているのであれば、消毒は基本的に次亜塩素酸ナトリウムをお勧めします。アルコールも無効ではないのですが、ノロウィルス感染時に中途半端な消毒は危険です。
ちなみに、この次亜塩素酸ナトリウムはその使用方法によって、濃度推奨が変わってきます。

濃度の違い

1,000ppm‥嘔吐物やふん便が付着しているものをより安全に廃棄するために用意する次亜塩素酸ナトリウムの濃度。
ウィルスが多く存在しそうな、高リスクなものの不活化に使用すると考えましょう。

200ppm‥嘔吐物やふん便を処理した後、ノロウィルスが付着している可能性がある、床やリネン類、食器、家具などを消毒するときの濃度。
ドアノブなどの感染者が触れている部分の日常的な衛生管理に使用すると考えましょう。

それぞれで有効な濃度が異なるので注意しましょう。

子供がいる場合の工夫ポイント

子供の嘔吐は突然なので、嘔吐リスクが高い間は、予め1,000ppmの次亜塩素酸ナトリウムを用意しておくと良いでしょう。保管は子供の手が届かない場所に、高温多湿・直射日光を避けてください。この保管であれば、数日間は使用可能です。

日常使いとして推奨される、200ppmの次亜塩素酸ナトリウムの代用として、市販されている次亜塩素酸水を使用すると良いでしょう。不要な添加物が存在しないため、安全性が非常に高く、スプレー式があり、わざわざ作る手間も省けるので、日常使いには非常に便利です。

加熱

食中毒予防としては、兎にも角にも加熱処理が重要です。ノロウィルスは熱にも強いので、加熱の目安は、85℃~90℃で90秒間と覚えておけば間違いありません。
最初の特徴でも挙げましたが、ノロウィルスはとても小さいウィルスであるため、牡蠣などの二枚貝の中心までもぐりこみます。ですので、中心部が85℃~90℃で90秒間でなければ意味がありません。
90℃の鍋に90秒間入れただけでは効果がありませんので注意しましょう。

また、意識して欲しいことが、牡蠣などの二枚貝を処理したときに一緒に出される生ものの処理です。カキフライにキャベツの千切りを添える、なんてときは、生の牡蠣の成分がキャベツにつかないようにしましょう。

薬剤師さん
薬剤師さん

生食を否定しているわけではありません。ただ、その危険性は理解しておきましょう。

かくいう私も、生牡蠣が大好きな一人でした。今は控えていますが。

食品以外にも加熱処理は有効です。

衣類に嘔吐物が付着したときの対策の一つとして、熱水洗濯があります。
バケツに衣類を入れて、熱湯(必ず沸騰したもの)を入れてしばらく放置。これを2回繰り返すことで、ノロウィルスの不活化が可能と言われます。

また、カーペットなどに付着したときの対策の一つとして、スチームアイロンの使用があります。
スチームアイロンを2分ほどかけることでウィルスが不活化が可能と言われます。

いずれの処理も、布の厚さや量によって効果に差は出てくることが考えられます。

廃棄

小さなお子さんが感染した場合は、もしも手持ちに廃棄しても良い服があれば、積極的に着せておきましょう。嘔吐物がついたときにそのまま廃棄が簡便で間違いのない処理です。
保護者の皆さんは、すぐに対応できるようにゴム手袋を用意しておきましょう。再利用可能な厚いタイプも良いですが、使用後に塩素処理などをする必要があるので、使い捨てで対応してしまった方が楽かもしれません。

タオルなどの共有は避けたいので、感染中はペーパータオルの使用もオススメです。
ノロウィルスは唾液や飛沫で感染することはほとんどありませんが、嘔吐後の口の中には存在します。嘔吐後は、可能であれば紙コップでうがいをしてもらうと良いでしょう。食器類も一時的に廃棄できるものに切り替えてみても良いかもしれません。

廃棄をする際は、密閉することが重要なので、感染リスクが高いもの(嘔吐物が付着したものなど)はジッパー付きポリ袋などを使用すると良いでしょう。感染リスクの低いもの(手洗い後のペーパータオル)などは、ビニール袋でも良いと思います。

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